活動レポート

【実践広告スキルアップセミナー7/23】
デジタルプラットフォームの進化

「デジタルプラットフォームの進化」

令和元年度実践広告スキルアップセミナーを、7月9日、16日、23日の3日間にわたって日比谷コンベンションホールで開催した。『デジタルトランスフォーメーション2019』と題し、23日は「デジタルプラットフォームの進化」をテーマに4人の講師を招いた。会員社・一般から約200名が参加した。

はじめに、「激動するマーケティングの変化について」と題して、鈴木禎久氏(㈱電通デジタル 代表取締役社長執行役員)が登壇。
第1講は味澤将宏氏(Twitter Japan㈱ 上級執行役員 広告事業担当本部長 兼 日本・東アジア地域事業開発担当本部長)が登壇。
第2講は川合純一氏(グーグル合同会社 上級執行役員)が登壇。
第3講は宮澤弦氏(ヤフー㈱ 常務執行役員 メディアカンパニー長)が登壇した。
その後4人で約1時間にわたるトークセッションを行った。

第1講:鈴木禎久氏

 今日は、登壇者各位の講演に加えてトークセッションを開催する。まずはテーマについて解題したい。
2018年の世界の企業時価総額ランキングを見ると、1992年頃に日本企業が名を連ねていた時から様変わりしている。これを読み解くと、“より多くの顧客に、より多くの接点で寄り添える企業”が成長している時代ということではないか。顧客リストをもとに、行動タイミングを理解できている企業が適切なマーケティングのアプローチをとることができ、リターンを得ているのではないか。
 デジタルを駆使した顧客に寄り添う仕組みの構築には、広告領域だけにとらわれない、マーケティングフロー全体のデジタルトランスフォーメーションが求められている。中国などでは、今やデジタル全体がリアルを包み込むOMO(Online Merges with Offline)が進み、Online/Offline関係なくデータテクノロジーを駆使して顧客体験を豊かにする取組みが実践されている。オンラインがオフラインを覆い、元々オフライン行動だった生活の全てがデジタルデータ化して個人に紐づき、あらゆる行動データが利用可能になっている。

鈴木禎久氏
鈴木禎久氏

 デジタルオーバーラッピングは、個人はデータを提供する代わりに、より快適な生活が提供される仕組みと言える。それにより、最適なタイミング×コンテンツ×コミュニケーションを掛け合わせた提供が可能になり、従来は製品単体で価値を提供するしかなかったものが、体験全体での価値の提供が可能になる。
 産業構造はメーカー/サービサー/プラットフォーマーの3レイヤーに分類されていくだろう。例えば“車を作るメーカー”から、“自由なモビリティを提供するサービサー”になることで、常に顧客と接点を持つことができ、マーケティングに活かすことができるようになる。
 クライアントとお話ししていると、KGIへのこだわりの高まり、カスタマージャーニー起点の高まり、ソリューションとメディアの統合による、人の動き(顧客体験)の創造のために必要な要素を逆算したいという要望が非常に高まっている。従来のマス広告だけ・デジタル広告だけの取組みでは満足度を上げることは難しい状況になっているといえるだろう。
 デジタルプラットフォームを最大限に活用していくためのヒントを得て頂ければと思っている。

第2講:味澤将宏氏

 Twitterは、立場に関わらず人が自由に発言をできる、自由な会話ができる場であることを目指しており、日本のマーケットはアメリカに次いで世界で2番目に大きい。若い人使うメディアというイメージがあるが、実際には40代、50代のユーザーも多い。

味澤将宏氏
味澤将宏氏

 一番の特徴は、「What is happening」をリアルタイムで話をする場である、ということ。最近では新元号発表のモーメントは非常に大きなインパクトがあった。日常では電車の遅延といったことから、世の中をにぎわすニュースまで、リアルタイムで何が起こっているかを知りにツイッターに見に行く、という動きで、これは写真投稿SNSなどが「Look at me」であるのに対して、「Look at this」という違いと言えるだろう。
 サッカーワールドカップなどもまさにそのような動きだった。世界中で同時多発的に同じものを見て、会話が巻き起こる。ファンもアスリートもブランドもツイッター上でスポーツを語る、“Twitterが世界最大のスタジアム”ともいえる環境ができていた。
 Twitterをマーケティングに使う目的としては、「会話を生む・会話に参加してもらうため」が最も多い。ユーザーは、ツイッターに情報を取りに行く・意見を言う・シェアをするという行動をとるので、自分の周囲に話をしてくれるという使い方を生かして新キャンペーンのローンチや、世の中ごととブランドをつなげる使い方ができる。また、話題が沈静化してしまうのを防ぐという利点もある。話題を分析すると、TV-CMに関するツイートが多いのも特徴だろう。ブランドに関する話題を世の中に対して最大化することができるプラットフォームという特徴を生かしてもらえたらと考えている。

第3講:川合純一氏

 生活者は自分にとってより便利で、より自分にあった情報を求める動きを近年ますます加速させている。そのニーズに応えるためのGoogleの取組みをお話ししたい。
 アシスト機能の充実について。「この近くのおいしいイタリア料理屋は?」「(年末の時期に)まだやってるラーメン屋は?」という検索結果を瞬時に出すことは実は容易ではない。複数の情報の要素を組み合わせており、その精度をさらに高めていく。

川合純一氏
川合純一氏

 機械学習について。機械自ら判断精度の改善を行うコンピューティング技術の革新と、個人が持つスマホなどのデバイス上の大量のデータを組み合わせることによって実現が進んでいる。現在のGoogleの技術革新の中心は機械学習であり、「火を扱うこと以来の人類の進化」と捉えている。生活者に対する深い理解・洞察と、データを活用したより複雑な分析を組み合わせることで、生活者のインサイトをつかみ、より良いサービスの実現につながる。例えば、コンビニの発注精度が3か月で1.7倍になるという事例もあった。優秀な店長が分析している視点を機械学習させることで成果がでており、ビジネスを改革させることにつながると考えている。
 パーソナライズについて。例えば交差点に立っている人たちは全て考えていることが違うわけで、それぞれに適した広告を配信していきたい。そのためには、個社が持つ顧客データとGoogleが持つ類似したユーザーのデータをつなげることで、より精度高くユーザーを抽出しアプローチしていけるはず。課題はデータの統合と整備。企業が持つデータは管理する部署が異なっていることも多く、統合的に活用できていない。細かな広告配信の運用については自動化機能を強化して、広告会社はより付加価値の高い業務に集中できる環境をつくっていきたい。
 従来はある程度のリーチを取れば注目度もとれたが、今ではターゲットが必要なときに必要なコンテンツを届けないと見てもらえなくなっている。そして既にWebメディアの接触時間はテレビを越えている。YouTubeでは、個人の好みに応じた広告の表示を進めている。また、既存メディアにとっても協働のメリットがあると考えている。例えばTVプログラムと連動したコンテンツを共同制作することで収入源の拡大、新たな視聴者の獲得などの事例がある。
 昨今関心が高まっているセキュリティの強化をさらに進めつつ、より素早く心地よい体験を求める生活者のニーズに応えていく。機械学習はすべての産業にとってデジタルトランスフォーメーションの鍵だと考えている。広告主や広告会社がより付加価値の高い活動に集中でき、メディアにとっては新たな視聴者の獲得とコンテンツ配信ができるように取り組んでいきたい。

第4講:宮澤弦氏

 ヤフーはメディア企業から脱却し、eコマース、PayPayなど金融決済まで事業の幅を拡大している。これは、メディア接触から購買に至るまでの人の動きを一気通貫で把握できることが、ひるがえってメディアの収益性を高めることにつながるという考え方に基づいており、ユーザーの消費行動のすべてのオケージョンにヤフーが携わることを目指している。

宮澤弦氏
宮澤弦氏

 我々は「メディア」「クライアント支援」「広告主」の3つの側面を持っている。
 メディアとして目指していることは、「嫌われない広告」「好かれる広告」を創造し、インターネット広告のさらなる成長をけん引すること。そのために、「広告品質のダイヤモンド」を先日発表し多角的な広告品質の向上に取り組み、Better Ads Standardsに準拠したユーザーと広告主それぞれにとって最適な広告フォーマットの作成に取り組んでいる。さらに、トップクリエイターとのコラボレーションによりユーザー一人一人の心に届く広告の作成を目指し「Yahoo! JAPANじぶんCM」を発表した。
 クライアント支援については、メディアに留まらず消費などのユーザー接点の拡充から生まれるマルチビッグデータに基づいた、マーケティングミックス戦略を活用いただくことを目指している。具体的なソリューションとしては、ブランド課題を可視化する「Yahoo! JAPANブランドステータス調査」を提供し、調査結果をマーケティング施策に反映させていけるようにする。また、広告効果の横断測定支援として、「Yahoo! JAPANマーケティング・ミックス・モデリング」を提供し、メディア単体ではなくメディア横断の効果や相乗効果の高い施策を明らかにし、適切な予算配分などを提案している。
 最後に広告主としては実験的なマーケティングを実践し、新たな広告クリエイティブの在り方も模索している。例えば、地震や天変地異の際に Yahoo! JAPANを見るという使い方が増えていることから、銀座ソニービルで防災啓発広告を掲出し、自然災害への啓発と同時にYahoo! JAPANの利用を促した。
 ヤフーは業態変化を起こしながら、マルチビッグデータの活用でこれからも日本のインターネット広告の未来を作ることに貢献していきたい。

トークセッション
トークセッション

第4部のトークセッションでは鈴木氏の進行の元にセッションを行った。
「生活者の行動をアシストする機能について」
「生活者の行動の瞬間をとらえて機械学習で最適化していく実装の現状について」
「マーケティングの3年・5年先の未来とは?」
などに加えて、会場内限定で話されたテーマも多数あり、受講者らは熱心に聴講していた。