活動レポート

【実践広告スキルアップセミナー7/16】
メディア・コンテンツのトランスフォーム

「メディア・コンテンツのトランスフォーム」

令和元年度実践広告スキルアップセミナーを、7月9日、16日、23日の3日間にわたって日比谷コンベンションホールで開催した。『デジタルトランスフォーメーション2019』と題し、9日は「メディア・コンテンツのトランスフォーム」をテーマに3人の講師を招いた。会員社・一般から約150名が参加した。

第1講は「AbemaTV 日本を代表するメディアへの挑戦~アベマ流 オリジナルコンテンツの作り方~」と題して、谷口達彦氏(㈱AbemaTV 制作局長)が登壇。 第2講は「これまでのラジコ、これからのラジコ」をテーマに、青木貴博氏(㈱radiko 代表取締役社長)が登壇。 第3講は「共感を軸に創る。MERYの挑戦」をテーマに、青木秀樹氏(㈱MERY BRAND STUDIO 部長)が登壇。 第4講は「コンテンツ&コミュニティー VMポトフがめざす新聞社の未来」をテーマに、宮崎伸夫氏(㈱朝日新聞社 総合プロデュース室長)が登壇した。

第1講:谷口達彦氏

2016年4月に開局したAbemaTVは、3年でアプリが4000万DLを突破し、この6月に1000万WAUを達成した。アプリの使いやすさや動作速度を最重要視して開発しており、GooglePlayベストオブ2018のユーザー投票部門のアプリカテゴリで最優秀賞を頂いた。TV視聴頻度が低いと言われる35歳以下、特に10代女性などからの支持率が高いのが強みと考えている。

谷口達彦氏
谷口達彦氏

恋愛リアリティショー、熱狂的なファンを持つ人・グループにフォーカスしたバラエティ、長時間特番などのオリジナルコンテンツ制作に力を入れている。同時に、TV朝日との協業の強みを生かして、正確性・速報性が求められるニュース番組の提供も重視している。これにより、災害や有事の際にもいつもと同様にAbemaTVにアクセスする視聴習慣が育ってきている。
これまでに実施した番組は既に416を超えており、制作において大切にしていることをいくつかをお伝えしたい。番組を企画するのではなく“話題から”企画するという視点で、番組作りと届けることを分断させないこと。番組を見たら面白かったではなく、見る前のティザーの段階から面白いと感じてもらえるようにすること。ヒットする番組にはリアリティ、共感・共犯、眼福などのポイントがあるので、そのコアポイントを外さないように、制作チームと経営側の意識を統一し、編成・制作・宣伝・その他の部署が一丸となって1つの企画に全力を尽くす体制をつくることなど。

1000万WAUの先に進み、50年に1度の日本を代表するマスメディアになれるよう、全力を尽くしていきたい。

第2講:青木貴博氏

ラジオは、1990年に比較して聴取者数も広告費も約半減しているという厳しい現実がある。電波が入りづらい、他メディアのシェア拡大、ラジカセなどプレーヤーの減少、若年層のラジオ離れなどが原因と考えている。

青木貴博氏
青木貴博氏

これらの課題に対して業界が大同団結し、ひとつのプラットフォームとしてラジオをPRしていくためにradikoが2010年にスタートした。現在、民放連加盟ラジオ放送局101局のうち93局が参加している。スマホデバイスからの聴取が約75%と伸長しており、のべ聴取時間も今年の5月に約52億時間と過去最高を記録した。さらに3月には「radiko auto」もリリースし、現在はまだ一部機器の対応だが、車載器でradikoを操作できるようになった。音の出るデバイスには全てradikoを対応させ、出口の最大化を目指していきたい。


そしてラジコプレミアムに続く次の事業収益として、radiko audio Ad をスタートした。広告の買い方が枠から人にシフトしていく中、広告主が求めるターゲットに向けてより詳細に、適切な配信をする仕組みを実現した。ラジオの完全聴取率は約98%と非常に高く、また、信頼できるコンテンツのみに配信されるため、ブランド毀損やアドフラウドの懸念が低いのが強みと考えている。タイムフリー機能では、番組内の好きなタイミングを指定してSNSでシェアすることができる。これによりノンリスナーの取り込みを強化していく。
今後は、5G、AIなど最先端のテクノロジーを活用することで、放送局ではなくコンテンツを主語にして生活者それぞれに最適なコンテンツを届けていく、“オーディオコンテンツロジスティクス”を実現していきたい。

第3講:青木秀樹氏

2017年に再スタートしたMERYは、10代後半~20代の女性を中心に、現在月間440万UUを持ち、90%がアプリからアクセスしている。小学館が株式の過半数を保有しており、雑誌メディアのデジタルトランスフォームの一つの形がMERYだと考えている。今日はその視点からお話しさせていただきたい。

青木秀樹氏
青木秀樹氏

今、出版社が苦戦している理由は、
名物編集長が 専属モデルを起用して トレンド・お手本情報雑誌で届ける』
モデルの限界が来ているからではないだろうか。
出版事業を「ブランド」「コンテンツ」「デリバリー」の3要素に分解すると、
 「ブランド」 ⇒名物編集長や専属モデルに頼るブランド作り
 「コンテンツ」⇒トレンドやお手本情報を提示する内容
 「デリバリー」⇒紙が軸になるが故の非本質的なデジタル対応
という状況だと考えている。テクノロジーの進化によって、情報に対する感性が変化してマスがお手本でなくなり、コミュニケーションが変化してデジタル上で共感が集まり、結果としてValue(価値観)が大きく変化している。例えば、記事で紹介されたある化粧品は、タレントがプロデュースした商品の紹介タレントがおススメするものよりも、どうしたらかわいく見えるかを考える中で紹介された記事の方が6倍のPVを得た事例もあった。
MERYの記事は平均年齢20歳、約130人の公認ライターが研修やナレッジの共有などを行い執筆している。等身大の「好き」が表現されて、読者が「共感」「モチベーション」「セレンディピティ」を感じられる。
上述の出版事業の三要素に対して、MERYは下記の方針のもとに運営している。
 「ブランド」 ⇒人に依存しないブランド創り
 「コンテンツ」⇒共感を軸にした等身大コンテンツ
 「デリバリー」⇒デジタル時代に最適なデリバリー

そして広告事業として「MERY BRAND STUDIO」を運営し、記事タイアップに留まらずコンセプト開発、イベント企画運営などの事業が成長している。ランキングやロジックなどの“薄い”データではなく、n=1の意見や想いを深く掘り下げた“厚い”データをもとに、機能から意味へと価値の再定義をすることを大切にしている。
メディアにできることをこれまで以上に愚直に追及することで、巨大プラットフォーマーに飲み込まれずに、パブリッシャーとしての文化とマーケットを創っていきたい。

第4講:宮崎伸夫氏

「VM(バーティカル メディア)ポトフ」のVMとは、ユーザーにとって興味のある特定のジャンルや領域を深く掘り下げるデジタルメディアという意味で、従来のマスメディアの水平型の情報発信に対比している。ネットの高速化やスマホの登場によって情報収集の方法がかつてなく変化しており、メディアの役割は「伝える」から「つなげる」にシフトしている。朝日グループのデジタル上の事業ポートフォリオは、紙幅の制限がないもかかわらずメディア数が少ない課題があった。そこで、より深く・パーソナルにつながれるバーティカルメディアとしてスタートした。

宮崎伸夫氏
宮崎伸夫氏

VMポトフは“コンテンツ&コミュニティー”をキーワードに、質の高い、深堀りのコンテンツに対して趣味嗜好や価値観など共通点を持つユーザーが集い、ユーザー同士が交流を深めることで、ロイヤル・コミュニティーの集まりを作ることを目指している。また、各媒体のコンテンツ・マネジメントシステムやUI/UXなどのデータ・テクノロジーを共有化することで、有力なユーザーのデータプラットフォームづくりを実現していく。
現在は7つのメディアを持っており、
 ●ミレニアル世代の女性に向けた「telling. 」
 ●社会派ペットメディア「sippo」
 ●ひとりの時間を楽しむ人に向けた「DANRO」
 ●世界中の特派員たちが世界の今、日本の未来を伝える「GLOBE+」
 ●旅・恋愛・映画・アートなど様々な切り口から本との出会いをつくる「好書好日」
 ●認知症の人とそれを支える人に向けた「なかまぁる」
 ●大学スポーツの現場からアスリートのドラマを伝える「4years.」
を運営している。
広告は、ターゲット層から「理解」と「共感」を引き出すコミュニケーション設計に力を入れ、大手広告主からスポンサードコンテンツやカテゴリースポンサーなどですでに協賛をいただいている。

さらには、「知る」から「行動する(購入・利用、共有)」までを一気通貫で支援できるサービス型のメディア『MaaS(Media as a Service)』を構築し、多様なマネタイズを実現させていく。
また、コミュニティーづくりの取組みとしては、リアルイベントを軸としたプロジェクトも推進している。
 ●アクティブシニアに向けた「Reライフ」
 ●知的好奇心の高い女性に向けた「Bon Marche」
 ●子育て世代に向けた「WORKO!」
 ●アラフィフ女性にゆるっとしたライフスタイルを提案する「Aging Gracefully」
などは、すでに多くの広告主のみなさまにご協賛いただいている。
デジタルとリアルイベントを通じて、ロイヤリティーの高い生活者グループをいくつも作り、朝日新聞社は「有力コミュニティーの集合体」へと転換していく。


受講者らは熱心にそれぞれの講義を聴講していた。