勉強会レポート

生成AIのトレンドと今後
PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
奥野 和弘

生成AIのトレンドと今後

はじめに

生成AIは、テキスト生成にとどまらず、画像・音声・動画の生成、さらには自律的にタスクを計画して実行する「AIエージェント」へとその領域を急速に拡大しています。東京広告協会の勉強会では、こうした生成AIの“現在地”を整理しつつ、PwCが実施した活用実態調査(日本・米国・中国・英国・ドイツの5カ国比較)をもとに、企業がどこで成果を出し、どこでつまずいているのかを共有しました。

筆者はこれまで、IT領域を中心にキャリアを重ね、AI技術(まだAIと呼ばれていない時代も含む)や、マーケティング領域におけるデータ活用などに携わってきました。PwC参画後は新規事業開拓を担い、生成AIコンサルティングの共同リードや、直近ではAPAC全体のAIコンサルティングのリーダーも務め、数多くの事例に触れてきました。

本稿では、勉強会でお話しした内容を元に、広告業界・法務/審査領域の皆さまの視点に寄せて再整理してお伝えします。

生成AI進化の現在地

1) AIは「人間を模倣」している
生成AIの進化を一言で表すなら、知覚と理解・思考と計画・実行と身体性の3つの軸で、より人間的な存在へ近づいている、ということです。

  • マルチモーダル:テキストだけでなく、画像・音声など複数の情報を統合して理解する
  • エージェント化:指示待ちではなく、タスク分解→計画→実行まで自律的に進める
  • フィジカルAI:スマホ/PC内に閉じず、ロボティクス技術などを通じて物理世界で働く

この流れの先に、AGI/ASI(人間同等~それ以上の知能をもつAI)が出現すると言われています。ユースケースが広がる一方でリスクも増幅するため、企業としては「使う/使わない」ではなく、どう統制しながら活かすかが問われます。

2) 生成AIの劇的進化の“3つの背景”
生成AIが急激に進化した背景として、勉強会では主に次の3点を紹介しました。

  • Transformerアーキテクチャにより文脈理解が向上した
  • スケーリング則と呼ばれる、一定の規模・条件を超えることでモデルの性能が急伸することの発見
  • RLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback)により、より人の意図や“好み”に沿った応答をするようになった

これら3つが重なったことで、「文脈を踏まえて自然に会話できる」だけでなく、「人間が心地よいと感じる返し」を高い確度で返すAIが成立しました。結果として、業務利用のハードルが一気に下がり、個人利用から企業利用へ、さらに“仕組みとして組み込む”段階へと普及が加速しています。

3) 経済インパクトは産業革命級。ただし“前提条件”がある
PwCの調査レポート「Value in Motion」では、AI導入が世界経済を再構築し、世界のGDPを最大で約15%押し上げる可能性が示されています。これは産業革命に匹敵するインパクトです。

一方で、同じ調査・議論の流れの中で強調したのは、「正しく活用できれば」という前提です。日本は、生成AI(LLM)導入の初動は早かったにもかかわらず、次の波であるAIエージェントでは主要国に比べ検討・導入が遅れており、ここを手当てできるかが分岐点になります。

ALによる経済へのインパクト
(勉強会資料)

生成AI活用の実態(成功企業の特徴、5カ国比較)

1) 日本の活用は拡大。一方で“コンプライアンス懸念”が急浮上
日本企業でも生成AI活用は急速に広がり、活用企業は過半数へ、検討まで含めると大多数が何らかの形で向き合う状況になっています。ところが、普及が進むほどに顕在化するのが統制課題です。直近では、生成AIのリスクとしてどの国においてもコンプライアンスに関する懸念が大きく伸長しており、「使い始めたからこそ見える現場課題」が増えていると考えられます。

コンプライアンスや統制上の典型的な課題としては以下が挙げられます。

  • 人材がいない
  • ノウハウがない
  • 社内ルール・統制・判断基準が整っていない

法務・審査の観点で言うと、「止めすぎず、緩めすぎず」の判断が難しい中、前例やノウハウが圧倒的に不足している状況であり、結果として、「現場は使いたいが、判断する側は基準がなく、結果として推進が遅れる」原因になります。そのため、ルール整備を“守りの作業”として後回しにするのではなく、推進と一体で設計し、判断を高速化する仕組み(ガードレール)として持つことが重要になります。

2) 成功企業の特徴:「小さく効率化」より「事業変革に張る」
調査から見えた成功企業の特徴は非常にシンプルです。

  • 生成AIを、業界構造や事業モデルを変えるチャンスと捉えている
  • 経営トップのコミット、あるいは強い権限を持つスポンサーがいる
  • CAIO級の意思決定者を置くなど、推進体制が明確
  • 一定規模以上の投資を行い、成果創出まで粘り強く回す

ポイントは、「社内の効率化・高度化」に閉じるほど成果が限定されやすい一方で、社外(顧客価値・提供価値)に踏み込むほど成果が出やすい傾向が見えることです。

(勉強会資料)

3) “テキスト以外のクリエイティブ”のほうが成果が出やすい現実
勉強会では、生成AIの活用領域について「テキストが先行しやすいが、効果が出やすいのは必ずしもテキストではない」という話も共有しました。

  • テキストは、社外公開・正確性が求められるほど最終チェック負荷が高く、時短効果が相殺されやすい
  • 一方、デザインコンセプトや画像・サウンドなどのクリエイティブは、制作工数が大きい割にレビューは相対的に短く済む場合が多く、効果が出やすい

このような特徴を意識ながら、生成AIに「何を生成させるか」を検討することでROIが大きく変わり得るという点は、画像やサウンドなどのメディアを多く活用する広告業界の皆さまにとって重要な示唆になるはずです。

4) 5カ国比較:日本は“社内×テキスト”に偏り、伸びしろが大きい
5カ国比較では、以下が際立ちました。

  • 日本は社内向け活用が相対的に強く、社外向け(顧客接点や提供価値)活用が弱い
  • 生成AIの捉え方も、海外は「業界構造を変える機会」と見る比率が高い一方、日本は「効率化・高度化」と捉える傾向が強い
  • ユースケースも、日本は文章執筆・要約・調査などテキスト系が中心で、画像/音声/動画などは相対的に弱い

実際、資料の5カ国比較では「テキスト以外の活用」の比率が、日本は相対的に小さく、伸びしろが大きいことが示唆されます(日本:19%、米国:31%、中国:29%、英国:33%、ドイツ:27%)。
また、AIエージェントの取り組み状況でも、日本は「理解しており導入済み/導入を進めている」が31%にとどまり、米・英・中・独は過半が同水準に達しています。生成AIが“当たり前”になっていくほど、次の競争軸はエージェント活用(自律実行)に移るため、日本企業にとってはここも重要な強化ポイントです。

(勉強会資料)

生成AI時代に人間に求められるもの

1) AIの限界:「学習したこと」しか答えられない
生成AIは非常に賢く見えますが、根本的な限界があります。AIは大量データから学習し、「もっとも確からしい答え」を返しているため、学習していない事象に対しては正しく回答できず、最悪の場合には、それらしい答えを作ってしまう(ハルシネーション)ことさえあります。

昨今のAIは、学習した内容の掛け算や組み合わせまでできるようになっていますが、それでもまだ誰も立てていない問いに対してゼロから正解を発明するのは苦手です。

2) だからこそ、人間の仕事は「問い直す力」へ寄る
勉強会では、自動車王ヘンリー・フォードの有名な逸話(「顧客に尋ねたら“もっと速い馬”が欲しいと言っただろう」)も引きながら、与えられた問いに答えるだけでなく、“問いそのもの”を再定義する力が、人に残る価値として増していくことを共有しました。

AIが「正解らしきもの」を高速で返す世界で、引き続き人に求められるのは次の問いです。

  • 真の課題は何か(課題・目的の再定義)
  • 何を問うべきか(問いの設計・リフレーミング)
  • 人にとって本当に重要なことは何か(背景、価値観、倫理観などへの深い洞察)

広告・クリエイティブの世界では、特に重要な領域と言えるでしょう。

3) 産業革命と同じく、「仕事が消える」だけでなく「新しい仕事が生まれる」
産業革命では肉体労働が機械に置き換わりましたが、人間の仕事が消え尽くしたわけではありません。アーツ・アンド・クラフツ運動のように「手仕事の価値」を再発見する動きもあれば、バウハウスのように「機械生産を前提にデザインを高度化する」試みも生まれ、結果としてインダストリアルデザイナーなど新しい職能も形成されました。

同様にAI時代にも、「代替」による不安だけでなく、AIを前提にした新しい分業・新しい職能が生まれる期待もあります。重要なのは、AIの得意/不得意を理解した上で、人間が担うべき価値創出を再設計することです。

(勉強会資料)

おわりに

生成AIは社会実装が進む一方で、企業価値への転換には「経営のコミット」「社外ユースケースへの展開」「統制・ルール整備」が不可欠であり、人に求められる役割も“答えを出す”から“問いを立て直す・設計する”へとシフトしています。

質疑では、生成AIと著作権の論点についても話題になり、現時点で見えているアプローチとしては、(1)権利クリアなデータのみで学習したモデルの活用(例:ストック素材ベース)、(2)生成物と学習元の紐付け/対価還元の仕組み、といった方向性をご紹介しました。また、生成AIの収益化として「プロンプト画面への広告」など、新たなビジネスモデルの芽も出始めていることにも触れました。

次回は、PwCの法律の専門家(弁護士)が参加し、AIと著作権を中心テーマを深堀してお話しする予定です。

勉強会にお招き頂き、ありがとうございました。

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