TAAサロン あの人にきく

山西 啓代 さん
生活者に対する興味とリスペクトをもって、
"受け手発想のコミュニケーション"を。
森永乳業株式会社
マーケティング本部未来価値共創部
マーケティングコミュニケーション部 部長

山西 啓代 さん
プロフィール 総合広告会社にて多様な業界のコミュニケーションプランニングを担当。2015年に森永乳業に入社後、デジタル・SNSを中心としたコミュニケーションを推進。現在はブランドコミュニケーションの全体統括を担っている。

コミュニケーションの魅力に心ひかれて

……広告会社勤務を経て現在のお仕事に就いていらっしゃいますが、一貫してコミュニケーション領域を担当されていますね。

はい、ほぼずっと商品のコミュニケーションに携わっています。考えてみると、学生時代からコミュニケーションに興味があったような気がしています。大学でラクロスをやっていたのですが、チームスポーツなので、ちょっとした声かけで人の気持ちが動いて、チームでの言動が変わったりする瞬間を目の当たりにしたことが度々ありました。そこに面白さや魅力を感じて、コミュニケーションの大切さを感じていたのだと思います。小さな言葉かけやアクションでも、人の心や人間関係に良い影響を与えられるかもしれない……、それなら、自分は将来そのようなことに関わる仕事をしたいという思いが生まれました。

広告会社に入社して営業配属されたのち、1年ほどマーケティング部署に社内留学し、その後営業に戻り、飲料や食品、ITなどさまざまな領域を担当しました。時々のクライアント様の課題に対して、コミュニケーションの力でアイディアを出して解決していくことが面白く、チームで議論を重ねていく過程で自分では思いつかないようなアイディアや考え方が出されることも新鮮で学びが多く、それが施策になっていくプロセスがとても刺激的でした。企画がローンチするときの達成感も大きく、仕事のやりがいや醍醐味を感じることがたくさんありました。

そうやって数年が経つうちに、自分の中で少しずつ気になることが出てくるようになりました。自分が担当した施策は本当に誰かの心を動かし、行動につなげることができているのだろうか、と……。クライアントの方々と接する中で、商品やブランドに対する熱い思いやその背景を聞く機会も多く、その度に、自分自身もこれを届ける側に立ってみたらどうなるだろうか、広告として伝える役割だけではなく、届けたものを手にするお客様の顔まで見て、もっと最後まで向き合うことができたらいいのではないか……そんな気持ちが芽生えてきて、転職を決意しました。

そうして現在の会社に入社して、改めて気づいたことがありました。あたり前のことですが、社内ではそれまで私が接していたマーケティング、広告、広報などのコミュニケーション領域の部署だけではなくて、工場、生産管理、調達、研究所、お客様相談室など、さまざまな部署が一丸となって製品をお客様に届けています。多くの社員たちの力を結集して作りあげた商品・ブランドをどんな風に生活者の方々に受け入れてほしいのか、ということを、より深く"自分ごと"として思考していくようになりました。

大好評だった"偏愛にまみれた体験型"の「大パルム展」。

……これまで担当してきたお仕事で、特に印象深いものには、どのようなものがありますか?

最近では、2025年7月に開催した「大PARM展」は、発売20周年を機に、"パルムラバーの偏愛"そのものを可視化し、体験として届けることをテーマに企画しました。ブランドの20年の歩みを伝える場というよりも、日常の中でパルムを愛してくださっている方々の視点に寄り添い、「なぜパルムがこんなにも好きでいられるのか」という気持ちを改めて感じてもらうことを目指しました。
 例えば「パルムをどこから食べるか」といった一見ささやかな違いも、パルムラバーにとっては思わず語りたくなる"偏愛ポイント"です。そうしたリアルな声やこだわりを起点に冷凍庫を開けた瞬間の小さな幸せを再現した展示、なめらかな口どけを空間で表現する演出などを展開しました。
 さらに、自分好みのトッピングでオリジナルのパルムを作れる体験コーナーも設け、来場者一人ひとりに「自分だけのパルム」を楽しんでいただきました。パルムラバーの皆さんが持つ多様な愛し方やこだわりを共有しながら、共感と発見が広がる空間になったと感じています。

会場は原宿で、開催期間は5日間と限られており、来ていただける方はどのくらいいらっしゃるかな……とドキドキしていたのですが、おかげさまで5日間で3000名以上の方にご来場いただき、大好評となりました。パルムと、パルムを愛して下さる方たちとの関係性にとても熱を感じられて、手応えがありました。さらに、やはりこういう時代ですので、ご参加の方それぞれが面白いと思って写真に撮ってSNSで発信という流れがとても多く、拡散による疑似体験人数も4000万人弱と大きな数字となりました。
 ブランドとのリアルな接点を作ることを大切にして、お客様にその記憶を積み重ねていただくことで、「パルムっていいよね」「パルムが好きだなあ」と思っていただけたら……、これからもそんな関係性作りができたらと思っています。

……今の時代に消費者の方に広告を届けることについて、どのようなことを大切にされていますか。

大パルム展でも再確認しましたが、今は企業側が一方的に発信するのではなく、受け取る側が面白がって拡散していただける仕掛けを作っていく時代だと思っています。さまざまなコンテンツがあってお客さまの可処分時間の奪い合いになっているのが現状です。コミュニケーション環境においては、企業が自分たちの言いたいことだけを届けることには、もうあまり価値はないのではないか。正しく伝えるということにとどまらず、その先に、商品がどのようにお客さまに受け取られ、どう広がりを持たせられるか、が重要だと思っています。
 たとえば、ふと気になる、とか、誰かにシェアしたくなる、自分も参加したくなる……という感覚を大切にして、ちょっとした感情の動き、楽しさ、驚き、面白さ、みたいなものを必ず入れるようにする。つまり、生活者の気持ちの動きをどれだけ丁寧に想像することができるか、ということを一番大切にしています。

"受け手発想のコミュニケーション"と私たちはいっていますが、企画者側はどうしてもシェアしてくれるはず、買ってくれるはず、と信じたくなってしまう。でも、本当に一人の生活者に戻ったときに、自分だったらシェアしますか?心が動きますか?というところを常にメンバー皆で意識する癖をつけるようにしています。商品のことを伝える立場と、それを受け取るお客さまの立場を、常に行ったり来たりするみたいな感じですね。
 そのためには、大パルム展の偏愛コンテンツを考えた時のように、本当にその商品を好きなお客さまにインタビューすることはもちろん、当社のお客さま相談室に寄せられる声も細かくチェックしたり、お客さまと直接会ってご意見を聞くイベントなどもできるだけ活用するようにしています。

……お客さま相談室へのメッセージには、質問やお困りごとだけではなく、好意的なものもあるのですか?

そうですね、特にパルムに関してはありがたいことに熱い想いのファンの方が多くて、たとえば「仕事で嫌なことがあってモヤモヤしたので、パルムを食べながらYouTubeを見たらとても幸せな気持ちになりました」とか、「おいしすぎてニヤニヤが止まりません」とか、嬉しいご意見を寄せていただいています。小学生からお手紙をいただいたこともありますし、SNSも含め、ご自身の気持ちや思い出、感謝のメッセージを寄せてくださる方がいらっしゃるので、そういう一つひとつのメッセージをありがたく頂戴し、参考にさせていただきながら、それが企画や発想の原点になっていたり、種になっていたり……。それらを起点にコミュニケーションを考えることも最近は多くなってきています。

ロングセラー商品こそ、時代に合わせたアップデートが重要。

……今後、森永乳業の広告・コミュニケーションはどのような方向を目指していかれるのか、展望をお話していただけますか。

商品の売上は常に重要なテーマですが、そうはいってもそれだけではなく、長いスパンでお客さまとの関係性を育てる、その二つをどう両立させるかが大切なポイントだと思っています。話題になった・バズッた、だけであれば広げ方次第でできることもあるかもしれませんが、それが商品に対する信頼や愛着を持っていただくことにしっかりとつながっているか?というのはまた別の問いだと思っています。買ってくださる方の"好きな気持ち"や、その商品との関係性をしっかりと把握した上で、短期と長期が両立できる施策を、と奮闘しています。

また、当社はロングセラー商品も多く、パルムが20周年、ピノは2026年に50周年を迎えますが、時代に合わせてアップデートしていくことがすごく重要だと思っています。20年前と同じことをやっていても受け入れられないし、あたりまえのことのようですが、丁寧に生活者のことを見て、世の中の動きに合わせてコミュニケーションをアップデートする。ずっと好きでいてもらえるためには何を伝えたらいいのか、何をしたらいいのか……発信方法についても、情報をただ伝達するのではなく、お客さまに参加してもらう、そして広がっていくということを意識しています。

だからこそ、送り手側も幅広く世の中のトピックに興味を持つことが大切になっています。例えば自分はある趣味のジャンルは興味がない、などと情報を受け取らずに閉ざしてしまうと、そこを接点とした新たなお客さまとの関係が育つ可能性の芽をつんでしまい、もったいない。普段の生活の中にある商品を扱っているからこそ、自分も一人の生活者として、日々の気づきを大事にしていきたいなと思っています。

……では、オフの日はどのようにして切り替えていらっしゃいますか?

週末は家族で出かけることが多いです。たとえばキャンプに一緒に行った友人家族との話の中で、今どんなことに興味があって、普段こういうものを食べていて、というような話が耳に入ってくると、やっぱりアンテナがたちますね(笑)。生活者のフレッシュな視点や意見はヒントになることが多いです。一方で、夫と子供は出かけて、私は終日家で仕事と全く関係のない動画をずっと見たり…そんな日もあります。

また、忙しい日々の中で、料理がちょうどよい気分転換にもなっていて、自然とキッチンに立つ時間が増えています。そんな中で出会ったのが、料理家の長谷川あかりさんのレシピで、今とてもはまっています。手軽に作れるのに、きちんと美味しいという体験が新鮮で、家族に喜んでもらえたときには、小さな達成感も感じられます。
 こうした日々の実感を通じて、商品を自分自身で使い、味わいながら得られる気づきの大切さを改めて感じています。
 チームの中にも、週末に自社のチーズを使ったレシピを試作し、継続的に共有してくれているメンバーがいて、自分自身もそうした姿勢に刺激をもらっています。

……ご自身の経験から、広告に携わる仕事をしている若い方々に向けて、メッセージやアドバイスをいただけますか。

"運と縁とタイミング"を大切にしてほしいと思っています。私自身はものごとに対して楽観的なタイプで、なんとかなる・なんとかする!チャンスが目の前に来たら機を逃さずつかもう!というマインドで仕事をしています。でも、実は若い頃は、たとえば知らない方と会うのはちょっと億劫と思うこともよくありました。けれども行ってみたらすごく勉強になった、とか、学びになるお話が聞けた、と感激することも何度もあって。一歩勇気を出して飛び込んでみると、世界は広がっていくと思うので、若い方々には、あんまり深く考えすぎないこと、せっかく一度きりの人生なので、多くの人と会って話したり、交流することを大切にしてほしいですね。
 もう一つは当たり前のようですが、仕事は一人ではできないのでチームで作る、という意識を強く持ってほしいと思っています。社内外問わず、多くの関係者と協力しながら一緒に一つのアウトプットを作り出すために、それぞれの専門性や視点を活かしながら、同じ方向を向いていくということ。一人でできることには限界があるし、一人で触れられる情報量や、一人で会える人数にも限りがあるので、協力してチームで考えることで良いものになっていくということは間違いないと思っています。
 そして、困ったらいつでも質問をしたり、聞きに行ったりしてください。人って質問されるとちゃんと答えてくれます!研究所の人なども、実は質問されると嬉しくて色々と話してくれて、そこに今まで知らなかった苦労や面白い視点があったりするものです。一緒にアウトプットをしていくためのチームメンバーなんだと思って、"ワンチーム"のマインドで仕事ができたらとても良いと思います。

そして、改めて先ほど話した「企業発想ではなくて受け手発想」についてですが、自分も一人の生活者・受け手として、自分だったらどうだろう?という、自分なりの視点と意見を持つ力を磨いていっていただきたいなと思います。そのうえで、生活者に対する興味とリスペクトをもって仕事ができれば、もうそれに尽きるんじゃないかと。私自身も、いつもそうありたいと思っています。

(インタビュー・文 牧野容子)

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