勉強会レポート

ジェンダー課題に対する取り組みと国内外の潮流
㈱電通グループ dentsu Japan サステナビリティ推進オフィス
シニア・マネージャー/cococolor編集長
半澤 絵里奈

ジェンダーとは

電通ダイバーシティ・ラボでは、DEIの各テーマについて議議論していくために領域を「障がい」「ジェンダー」「多文化」「ジェネレーション」と大きく分類しています。図の右上に示すように「ジェンダー」には、①男女の社会的役割に加え、②セクシュアルマイノリティのことも含めています。

①男女の社会的役割については、男女共同参画社会の実現に向けて国内で女性管理職の育成や昇格、男性育休取得が奨励される一方で、日本のジェンダーギャップ指数はまだ146か国中125位(世界経済フォーラム2023)という現状があります。
女性に焦点を絞ると、働き方に限らず、リプロダクティブ・ヘルス/ライツへの理解度・推進力の低さ、性暴力の被害、COVID-19の影響として生活環境の変化からDV相談件数の増加、自殺率の増加も指摘される他、女性のひとり親世帯の貧困も目立ちます。
一方で、男性に焦点を絞ると、男性に対する根強いジェンダー規範がジェンダー平等実現の阻害要因になっているのではないか?男性の生きづらさの要因になっているのではないか?という議論がこの数年注目されています。女性の国際女性デー(3月8日)は数年前から国内でのアクションも増えてきましたが(後述)、11月19日の国際男性デーのアクションもメディアに取り上げられ関連書籍も書店に並ぶようになってきました。

②セクシュアルマイノリティ(LGBTQ+)については、国内に当事者は約9.7%いるとされています(20~59歳、57,500人対象調査/電通グループ「LGBTQ+調査2023」)。当事者の存在やどう生きたいかという想い・考えを受け入れる、或いは同性婚・同性カップルの権利を保障、職場環境での働きにくさを解消するために様々なアクションが起きています。企業が賛同・参加するアクションも非常に盛んで、毎年4月に開催されている東京レインボープライド(性的マイノリティの存在を社会に広め、「“性”と“生”の多様性」を祝福するイベント)、同性婚の法制化に企業が賛同する「Business for Marriage Equality」、性的マイノリティが自分らしく働ける職場づくりの指標化/企業の表彰である「PRIDE指標(work with Pride)」などがあります。

電通グループでは、「国際女性デー」「プライド月間」についての潮流・事例をまとめており、その一部をご紹介します。各企業の具体事例については割愛します。


国際女性デーの潮流・事例

2023年の国際女性デー(略称IWD)キャンペーンテーマは「#EmbraceEquity 公正さを受け入れよう」でした。IWD公式ホームページによれば、このテーマが示しているのは、“国際女性デー、そしてその先も、みんなでしっかりと #EmbraceEquity しましょう。Equityはあったほうが良いものではなく、マストハブ=欠かせないもの なのです。ジェンダー・エクイティに焦点を当てることは、すべての社会の DNA の一部である必要があります。そして、Equity と Equality の違いを理解することが重要ということでした。

検索データをもとに分析すると、日本国内における「国際女性デー」への関心は数年に渡って上昇しています。一方、世界に目を向けると検索数は伸びているもののSNS(Instagram)投稿数は3年連続で減少するなど、日本とは違う傾向が見られます。

国内では、多くの企業が自社内の女性の働きやすさ向上や意思決定層のジェンダー平等を目指し、あらゆる施策を推し進めていますが、3月8日の国際女性デーは社内に留まらず、世の中へのメッセージ発信、あるいは自社の顧客へのアプローチも数多く実施されています。

2023年の各社のアクションについて、その手段を「広告」「広告以外の認知啓発アクション」「課題解決アクション」に分類し、メッセージを「包括的なもの(大きく女性課題を捉えたもの)」「特定イシュー(細分化した女性課題)」に分類。全6カテゴリにマッピングをしました(この後に述べるプライド月間についても同様の分析を行いました)。

国内外の企業の事業事例としては、ほぼすべてのカテゴリに置いて活発なアクションが見られました。特に国内においては、特定イシューに対する「広告以外の認知啓発アクション」(上記、表の⑤)にあたる事例が多く、女性の健康/フェムテックについて学べるイベントの実施が複数開催されていました。この領域は、製薬・トイレタリーのメーカーが継続的にコミュニケーションを続けている他、女性の健康課題を具体的に解決するソリューション(自社のサービスやプロダクト)に着地できるようにしている事例が多くあります。また、海外に目を向けると、世界的に課題とされている女性理系人材の不足に着目し、将来の職業をこれから考える世代をターゲットにして、STEM分野(科学・技術・工学・数学)で活躍する女性たちを称えるような取り組みもありました。


プライド月間の潮流・事例

国際的にはプライド月間は6月とされています。一方、日本国内では「LGBTQ+、いわゆる性的少数者が、差別や偏見にさらされず、前向きに生活できる社会の実現」を目指して行われる国内最大級のLGBTQ+イベントである東京レインボープライド(以下、TRP)が4月に行われることから、私たちは4-6月の3か月間をアクションが起きやすい期間とし、この期間にリサーチをしています。2023年のTRPでは、「変わるまで続けよう」というアクションテーマを中心に様々なコミュニケーションが展開されました。

検索データをもとにすると日本国内の話題量はさほど伸びていない一方でTRPでのパレードには前年比5倍となる約1万人が参加するなど、リアルイベントへの関与度は爆発的に上がりました。また、グローバルでは「バックラッシュ」と言われる人種やジェンダー問題などの社会的弱者に対する平等の推進や地位向上などに対して反発する動きが起き、LGBTQ+支援活動に取り組む企業やブランドがこの問題に直面した1年でもありました。

国内外の企業の事業事例としては、「広告以外の認知啓発アクション」(上記、表の②⑤)が最も目立ち、複数の商業施設やブランドがLGBTQ+当事者やアライの方々をエンパワメントするメッセージやプロダクト展開を行っていた他、当事者の方々と一緒に参加できるイベントの実施も数多く見受けられました。国内においては、4月から6月にかけてシティドレッシングやレインボーデザインのプロダクト販売が一般化してきた印象もありました。一方、一過性・短期のプロジェクト展開が多く、継続性・長期のコミュニケーション・施策・仕組みづくりに取り組む企業がまだ限られているところは今後に向けて残された課題かもしれません。

本勉強会では、国際女性デーとプライド月間を事例に上げ、ジェンダーについての整理と潮流・傾向についてお話しました。なお、年間を通じてコミュニケーション量を分析すると、それぞれのメモリアルデー/月間が設定されている3月、4-6月にコミュニケーションが集中しているのが現在の状況です。しかし、女性あるいはLGBTQ+の当事者にとって、課題は時期を選ばずに発生しているものです。今後は、メモリアルなタイミングに加えて継続的なコミュニケーションが展開されたり、年間を通じてソリューションが連続的に提供されていくようになることが望まれていると考えています。

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